水際のエコトーンをバーブでつくる

機関紙「国立公園」に掲載された内容です。

はじめに

国立公園の地域内に川が流れ、河岸に護岸が見えるのはありふれた風景の一コマである。国立公園は「特別な自然現象の保護を主目的として管理される地域」であるので、自然の保護に配慮した柔らかい護岸が望ましい。しかし固い護岸にせざるを得ない事情から、長らく柔らかい護岸の出現を遅らせてきた。ところが「多自然型川づくり」(旧建設省通達 平成2年)によって柔らかい護岸への可能性がでてきた。破壊力の強い増水の流れをうまくかわす柔らかい護岸の技術は未発達であったが、試行錯誤の15年を経てバーブという柔らかい護岸の工法にたどりついた。

自然公物の川の護岸とは

川は道路のような人工公物とは違う自然公物であり、その一部が護岸である。川を自然公物というのは、自然の状態においてすでに公の用として機能していた実体からきている。護岸は川という自然公物のなかで河岸決壊を防止する河川構造物である。河川法の河川管理施設と位置づけられ、公共物としての耐久性が求められているため、力学に基づいて計画・設計され、固いコンクリート製の人工物構造が普通である。

川で自然が猛威をふるうのは短期間。穏やかな日々が常態である。これに合致した護岸は固い護岸ではなく柔らかい護岸であろう。柔らかい護岸の契機は、旧建設省の「多自然型川づくり」通達(平成2年)といえる。通達後、河川管理の大本である河川法が改正(平成9年)された。改正によって河川法の主目的は治水と利水の2本柱から河川環境の保全と整備を加えた3本柱となった。河川技術者は、河川管理施設等の設計において自然の保全に配慮が当然のこととなった。

治水に重きをおいていた固い護岸から河川環境の保全に配慮した柔らかい護岸へ。この柔らかい護岸を追い求めて試行錯誤してきた結果がバーブである。柔らかい護岸のもつ質感は景観だけでなく水際の自然生態にも影響をあたえる。

水際のエコトーン

柔らかい護岸の発想は、河川環境の保全の観点からエコトーン(移行帯)の創出へと導く。

護岸が設けられる水際は陸域と水域のエコトーンである。自然河岸のころは複雑な地形・地質の場所であったと推測される。自然の河岸は一般に土砂で構成され植生に覆われた地続きとなっている。このような河岸は、自然状態のカバーが豊富な微地形がおりなす魚類等の生息空間として保全すべき場所である。このようなカバーのあるエコトーンと水生生物の関係は、河口洋一博士(徳島大学)がおこなった土木研究所自然共生センター研究員のときの生息量調査で明らかである (図1~3)。カバーとは、魚類等が捕食者や強い水流からの避難場所として利用することのできるもののことで、(1)水中の倒流木、(2)水中のブッシュ状の小枝や大型草本の茎や葉など、(3)河岸部のえぐれ、および(4)水中または水面上に張りだした植生である。

エコトーンも増水でカバーもろとも侵食された場合、河川法の改正趣旨を踏まえ、できるだけエコトーンの保全に配慮した護岸設計が求められる。この要請を可能にするのは、侵食を起こす流れを弱める工夫によって、固い護岸から柔らかい護岸に転換をはかることである。この考えを形にする試行錯誤の時を数え、たどりついた技術がバーブであった。

水際から突き出すバーブ

河岸侵食を起こす流れを弱めるのは川の寄州が確からしい。寄州のある河岸を観察すると侵食量が少ないから。その理由は、寄州が流水の流向を規制し流れを河岸から遠ざける作用があるからであろう。この仮説が正しいとするなら、人工的な寄州をつくることで河岸侵食が弱まり、柔らかい護岸が可能となる。問題は寄州を構成する砂礫を堆積させる方法である。ある程度大きな増水があると川の流れは濁流となって上流から砂礫を運搬してくる。この川が運んでくる砂礫を捕捉できると寄州ができるはず、と考えた。

ではどのような捕捉の方法があるか? いろいろ試した結果、低い突起のある障害物を岸側から川の真ん中にむかって緩やかな勾配をつけ、鋭角な上向き方向に突き出すことで、砂州が形成されやすいことがわかった。具体的な障害物形状は、平水位より30センチ内外で冠水しやすい低い高さにすること。二つめは、川の真ん中に向かって岸から2パーセント前後の勾配ですりつけること。三つめは、河岸法線から約26度(1:2)の鋭角で上流に突き出すことである。

以上の捕捉構造をアメリカではバーブ(Barb)と称していることを後にしる。バーブとは、釣り針の針先についている“かえし”のこと。その役割は餌や魚が外れるのを防ぐことにある。砂礫を捕捉して逃がさないことに通じる。このことから寄州づくりの名称をバーブと呼ぶことにした。バーブは三面張水路でも寄州の形成が可能であり応用範囲のひろい工法である。(図4~6)

図4 3面張水路完成(平成21年11月)

 

図5 連結玉石のバーブ設置(平成21年11月)

 

図6 5年後バーブで寄州形成(平成26年8月)

 

おわりに

バーブは柔らかい護岸に至る有望な新しい工法であるが、河岸から突き出た、流れの障害になる河川構造物である。バーブは強い流れを受けるため破壊されやすく固い構造物になりがちであるが、それでは固い護岸の二の舞となる可能性がある。そうならないためには護岸同様、流水の作用をうけながす柔らかい工夫が必要であろう。このような構造はある程度の変状を許容することで可能と考えるが、その場合、変状が破壊に到らぬように、手入れのしやすい構造をあわせもつことになる。バーブはこれからも課題を克服しつつ、現地の河床材料や樹木を使い、河川の専門家だけでなく地元の人たちが協働で身近な川を手入れする道具となることをめざしている。