環境DNA分析の自然公園への活用の展望

機関紙「国立公園」に掲載された内容です。

はじめに

環境DNAという言葉を聞いたことはあるだろうか? 昨今、生物モニタリングの分野では目を見張る最先端の技術として注目を浴びている技術である。その進歩は日進月歩で、これを書いている現在も研究が進んでいる分野であるため、本稿ではその技術の概要と環境DNA分析と魚類の捕獲調査の比較を行った事例を紹介する。

環境DNA分析とは?

河川や湖沼に生息する水生生物、例えば魚類を知りたいと思ったら、通常の方法では網やワナ等を用いて捕獲する方法が一般的である(写真1)。この方法は、複数の調査者が専門の機材を用い調査を行い、魚種の判別には専門的知識を要する等の労力やコストがかかる。


写真1 一般的な魚類捕獲調査の様子

環境DNA分析は、水中に溶出した生物のDNAを採水により採取し、その中に含まれるDNAを抽出・分析することで生息する種類や分布量を分析する方法である。その対象は、魚類、両生類、甲殻類、哺乳類(ネズミ類)、微生物等での報告例があり、形態からは同定が難しい魚種や稚魚でもDNAにより判別できる場合がある。

環境DNA分析と捕獲調査による魚類調査結果の比較

環境DNA分析と捕獲調査の比較ということで、石狩川と当別川の合流点にある石狩川下流当別地区自然再生地(図1)にて実施した魚類調査の事例を紹介する。調査地点のうち、砂州は流水域、P2池、6湖沼、P9池は、平時は独立した水域だが、河川が増水すると数年に一回の割合で冠水し河川と連結する状況にある。環境DNA分析のための採水は二〇一八年七月に、捕獲調査のうちP2池、6湖沼、P9池は同年八月、砂州は同年一〇月に調査した結果を用いた。なお、環境DNAの収集、分析は北海道大学大学院農学研究院・動物生態学研究室(荒木仁志教授)の協力のもとで実施し、捕獲調査データは北海道開発局札幌開発建設部札幌河川事務所から提供いただいた。

図1 調査位置図(石狩川下流当別地区自然再生地)

環境DNA試料を採取する採水は、フリーザーバッグ一つ分の水を採取し(写真2)、そこから二五〇㎖の水をシリンジを使って現場でろ過し試料を採取した(写真3)。

写真2 環境DNAサンプルを採取する水のサンプリングフリーザーバッグ一つ分の採水!!

写真3 採水した水(250ml)をろ過し環境DNA分析にかける試料を抽出
(北大農学研究院 水本寛基氏)

一部環境DNAで検出されていない魚種もあるが、おおむね捕獲魚種を網羅した結果となり、検出種数は捕獲調査に比べ約一・五〜二・〇倍であった(表1)。このうちカワヤツメ等のヤツメウナギ類は、現時点ではMiFishという環境DNAメタバーコーディングツールでは検出が難しい種とされている。

環境DNA分析と捕獲調査の特徴の整理

環境DNA分析と捕獲調査のメリット、デメリットの整理を行ってみた(表2)。

いずれの手法にも、メリット、デメリットは存在することから、それぞれの特徴を把握した上で、調査目的に応じて両方の手法をうまく使っていくことが求められる。

自然公園への活用の展望

国立公園は優れた自然の風景地、それを構成する動植物および生態系の多様性の保護を主目的としており、その自然環境を把握する場合は、自然環境が撹乱や改変を受けないことが望まれる。国立公園内の河川や池沼に生息する生物種を把握する場合、環境を改変することなくわずかな水の採水で生息する生物種の概要を把握できる環境DNA分析は、有用な方法であると考える。また、長期的にモニタリングすることで、外来種対策の効果検証や各種の現存量の長期的変動を把握する等への展開も考えられる。

謝辞

環境DNAサンプル採取・分析および本稿の執筆においては北海道大学大学院農学研究院・動物生態学研究室荒木仁志教授のご協力を得た。魚類調査結果は北海道開発局札幌開発建設部札幌河川事務所からの提供を受けた。ここに感謝の意を表する。